パヴァーヌ

千鳥足の王女さま
お城の窓から
見える庭
小鳥のおもちゃ
白い馬
緑の上に
咲いた薔薇
赤い瞼をわずかに開けて
うつむいたまま咲いた薔薇
真鍮のじょうろ
蜜のつぼ
小鳥のおもちゃ
金のお茶
千鳥足の王女さま
青い目開けて
背を伸ばす
大行列の大広間
歩んでまた踏む
床のいろ
白亜のなかに
咲いた薔薇

エンゼル

エンゼル
きみ
ひたいを見せて
花のもようが
こんなにも

エンゼル
きみ
せなかを見せて
羽のつけねが
あたたかい

エンゼル
きみ
ひとみを見せて
なにもかもを知っている目は
なにも映さないね

不安II

由緒ただしき
天界の
お庭に住まう
銀の鳥

品行方正で
かこわれた
四角い泉の
周をぷらぷら

わたし白骨
由緒ただしき
天界のお城
白骨の…

「水音?」

白道めぐり

月は何も言わないが
欠けたり満ちたり
赤らんだり
引いたり押したり
青ざめたり
いつもおまえを見つめてる

月は何も言わないが
かなわぬ抱擁みぞに映して
髪なで己の鏡をのぞき
それを割ったり磨いたり
恋に狂って浮いている

銀河は何も言わないが
琴の銀糸に真珠をとおし
残像の描く月日の白道
ダーム・ブランシュを食べている

冷やかな
天の青が帯びていく
太古の雲の地形帯

あなたはマーマレードジャムをトーストに乗せて
憂鬱そうに

空腹と 食べるしあわせ ずっと続けばいいのに…

研究員はまた一つ
絶滅した大気の痕跡を発見したよ

わたしは昨夜の風にさらした
冷たいシャツに袖をとおして
あなたのコップにミルクを注ぐ

こぷこぷと
まつげに一番目の陽が射した

トルマリン・パーティー

高層ビルが生えてくる
まだちっちゃな子どもの神さま
右と左のあいだで迷って
都市の明かりになるのだわ

赤!
の横をアクセルで過ぎ!
青!
の手前をブレーキがてら!
燈!
の後ろをなんてことなく!

色々色の渦巻いた
路面を車が駆けていく

わたしは車輪!
恋人のようなわたしのあなたと
しらない道をどんどん行くわ

わたしは車輪!
恋人のようなわたしのあなた……
しらない道をどんどんどこかへ
地理のにがてなわたしを連れて
万華鏡のよな都市を走って!

なんて美しい
パーティーなの!

馬車

ぼくの上着に
ばら園の
ばらを入れたの
だあれだい

線路ぞいのまち
となりは渋谷
夜はがらすになってしまう
こんなに脆い赤ばらを

だれも乗らない電車に乗った
電気ではしる馬車だよう
ゆれるなつかしい篭のよに
気づけば銀河のすみっこだ

夜はがらすになってしまう
ばらたちの故郷のばら園だ
線路ぞいの国
となりはペガスス
眼下はメトロの地図のよう
ちらばり動かぬほたるたち
砕いた石の欠片だろう

朝には日のもと照らされる
ぼくの上着に
ばら園の
ばらを入れたの
だあれだい……

ちりじりの翅をみつける朝の
カーテンを閉じて切符をにぎる
目をとじたんならぼくもばらだよ
宇宙のやみでずっとがらすの
国に咲くがらすのほたるだよ

ジャングルにて

木々よ整列
葉よ進め
実のなる枝には
雨降らせ!

灰クロムざくろ石の絨毯の上で
ハリマオウの毛がいったりきたり
ゆれて夢みる夜の朝

木々よ整列
実よ進め
花咲く枝には
雨降らせ!

女王の衣服を身に着けた鳥
二本足の、トサカのでかい、
おしゃべり鳥がやってきて

ハリマオウ
がおう!月の出遅いじゃないか


ハリマオウ
がおう!風の指さきが曲がった


ハリマオウ
がおう!

灰クロムざくろ石のきれいな緑は
いっしゅん燃えて夜明けの赤く
油ヤシ園のその先に
王宮博物館の壁
ハリ、
ハリマオウが牙をむき…

絵札

トランプトランプトランプ
赤と黒
赤と黒
赤と黒
1から13までと
ジョーカーがそれぞれセット

きりながらため息
白紙のカード
雨やら花やら染みこんでいく

自鳴琴

どんな上手に作っても
オルゴールは
小鳥じゃないから止まります

おねがいだから
たまには飽きずにここへ来て
お唄をきいてくださいな

どんなに上手に作っても
オルゴールは
思い出だから止まります

おねがいだから
ここに座って蓋をひらいて
つづきを唄ってくださいな
ねじを巻いてくださいな