時がわたしの
のどの中を通過する
指先を抜けて
泳ぐような細い月も
きちんと空を通過する

わたしは自分を
できうるかぎりまるくする
がらすのように
卵型の
曲線ばかりになろうとする

そしてただ
すべり落ちていくものたちの
時間の城になろうとする

信じる

花を信じる
青い空からこぼれてくる
雪の結晶を信じる
その人の選んだ
短い言葉を
雲間にひびく雷鳴を信じる
つもることのないすべてを

航海士

はるかな旅にも
なれた航海士
手のなかの
時計
ではない
コンパスが
一心に北をさす
かすかなふるえをおさえつつ

あなたのゆく
北の果てに
もしもひとつの
島もありはしなかったら
あなたを船ごとおぼれさせる
おおきなおおきな
あたたかな海が
わたしのなかにあったらいいのに

風景そのものが
夢を見ている、
その夢のなかで

空の中心から
降り注ぐ黄葉を
くぐり抜ける月。

わたしは南天の
実りを待つ鳥。

風景そのものが
涙ぐんでいる、
その涙のなかで。

草原

華圃に降る
糸の雨

午后の天球は
やさしく曇り

この身をはてしなく
ふくらませる雲の空想に
置いていかれたわたしたちは
二本足の奇妙な草

ここにすわって
少し睡っても
いいですか

花舟

春の暮れ
あちらこちらで
絡めあう
金の鎖と重い舟

姿もない
薄荷の風をといてやり
花のろうやは
散りました

カサブランカ

ある季節には
わたしの世界には隠された王国があった
青い枝先に
白いこうべを垂れるその人は
百合の王だった

その人の背中に
幾重にも合わさった
美しい葉が
無能のつばさのように
ひらかれているのを見た

あれは
夏の終わり
一億の雨が降り止むと
ひとつぶの涙が
定めに抗って
ひとつの霧になろうとしたのです

足をすて
羽をさずかる

蝶はかつて
踊り子だったのでしょう

花の森で疲れはて
なおも踊りたりぬと言うは
かなしく清い眼だったでしょう

詩は
不気味な
おおきな鳥

ほんのひととき
梢にとまり
羽根を休める
ふしぎな鳥

鳥は飛びたつ
すべての詩が
言葉を離れてゆくように

夜想

夜は想う
森のなかへ
帰ってくる魚の群れ
ああ思い出した
わたしはここで咲いてたの

夜は想う
田園へ
帰ってくる花の群れ
ああ思い出した
あれはわたしの恋人の家

夜は想う
空高く照る月のあたり
わたしは思い出せない
もうそれ以上は