木々の向こうから
だれかが呼ぶ声がする
つぎつぎに咲く
ばらに見入ったふりをして
わたしはいつまでも答えずにいる
ここにいるわと言ったとたんに
あなたは消えてしまうのでしょう
水の底には
緑のばらが咲きつづく
木々の向こうから
だれかが呼ぶ声がする
つぎつぎに咲く
ばらに見入ったふりをして
わたしはいつまでも答えずにいる
ここにいるわと言ったとたんに
あなたは消えてしまうのでしょう
水の底には
緑のばらが咲きつづく
筆が遠くなってしまいました
「元気です」と方々に手紙を書きたいのに
途切れることのない月日のなかに
深く聴き入って
長い楽章の途中で席を立つことができない人のように
梢を流れる雲
太陽のめぐり 時の鑿の音 そのなかにひそむ
ひとつの響きを
それが遠ざかり消えてゆくのなら
最後まで聴きもらすことがないように
近づいてくるのなら
それが呼ぶ一瞬に
答えそこねることがないように
梢にひとつ、またひとつ
金の予感がひかるころ
だれも聴いたことのない
歌を口につめこんで
花野のかげに佇む子
アスターよりもちいさな子
だれもかれも
あの子にかまうひまがない
秋はせわしく過ぎてゆく
空をあおげば
天使たちが銀杏の枝を叩いてまわっている