夕方は
がらす壜の細く
括れたところをくぐる
沙の粒がよく見える
はるかな丘陵へ
畑の縁に沿って咲く
白いアイリスの花叢も
ゆっくりとこぼれながらきれい
わたしの手のなかには
たったひとつの小石がある
何の役に立つだろう
投げすててしまえば
この世界でいちばん小さな
小さな垣根がくずれるだろう
うつくしい夜にも
おそろしい夜にも
わたしの手のなかには
たったひとつの小石がある
何の役目があるだろう
投げすててしまえば
この世界でいちばん小さな
小さな橋がくずれるだろう
時がわたしの
のどの中を通過する
指先を抜けて
泳ぐような細い月も
きちんと空を通過する
わたしは自分を
できうるかぎりまるくする
がらすのように
卵型の
曲線ばかりになろうとする
そしてただ
すべり落ちていくものたちの
時間の城になろうとする
はるかな旅にも
なれた航海士
手のなかの
時計
ではない
コンパスが
一心に北をさす
かすかなふるえをおさえつつ
あなたのゆく
北の果てに
もしもひとつの
島もありはしなかったら
あなたを船ごとおぼれさせる
おおきなおおきな
あたたかな海が
わたしのなかにあったらいいのに
ある季節には
わたしの世界には隠された王国があった
青い枝先に
白いこうべを垂れるその人は
百合の王だった
その人の背中に
幾重にも合わさった
美しい葉が
無能のつばさのように
ひらかれているのを見た
あれは
夏の終わり
一億の雨が降り止むと
ひとつぶの涙が
定めに抗って
ひとつの霧になろうとしたのです